兵庫県内自治体財政力比較 ― 「数字」が語る地域の実力
財政力指数とは、自治体がどれだけ自前の税収で行政サービスを賄えているかを示す指標です。全国の自治体の平均を1とした場合、数値が高いほど財政的に自立していることを意味します。一般に0.5を境に、地方交付税に大きく依存せずに運営できる「自立型」と、国の支援を受けて行政を維持する「依存型」に分かれます。
兵庫県はこの指標で見ると、南北での差が際立ちます。神戸市や西宮市など阪神間の都市は1.0前後と全国でも上位に位置しますが、但馬や北播磨など山間部の自治体では0.3台にとどまるところもあります。同じ県内でも、人口密度や産業構造の違いが財政の余力に大きく影響していることがわかります。
財政力指数とは ― 税収構造を映す鏡
財政力指数は、「基準財政収入額」を「基準財政需要額」で割った比率で算出されます。少し難しく聞こえますが、要するに「自治体が必要とする行政コストを、自分たちの税収だけでどの程度まかなえているか」を示す数値です。
この指数は、単なる“豊かさ”を表すものではありません。工業や商業が活発で税源が厚い都市は高くなり、逆に人口が少なく固定資産税中心の地域では低くなります。つまり、財政力指数は「地域がどれだけ自前の力で行政を運営できるか」を映す鏡なのです。
財政に余裕がある地域はどこか?

地図を見ると、南部の阪神・播磨エリアが明るい色で示され、財政力が高いことが一目でわかります。対して、内陸部や日本海側は濃い色となり、財政的に厳しい地域が多い傾向にあります。これは単なる地域差ではなく、「都市構造の違い」が財政を決定づけていることを示しています。
神戸や姫路のような港湾都市では、製造業や物流などの産業基盤が集中し、法人税や固定資産税などの税源が厚くなります。これに対して、朝来町や美方郡のような山間部では、地価や人口密度が低く、固定資産はあっても流動的な資金が乏しいため、安定した税収を確保しにくい構造があります。
財政力指数の地理的な濃淡は、地域経済の姿そのものを映しているといえます。
🏙 兵庫県内自治体 財政力指数ランキング(令和5年度決算)
| 順位 | 自治体 | 財政力指数_R5 |
|---|---|---|
| 1 | 芦屋市 | 1.05 |
| 2 | 西宮市 | 0.93 |
| 3 | 加古川市 | 0.86 |
| 4 | 姫路市 | 0.85 |
| 5 | 三田市 | 0.83 |
| 6 | 宝塚市 | 0.82 |
| 7 | 播磨町 | 0.82 |
| 8 | 尼崎市 | 0.81 |
| 9 | 高砂市 | 0.80 |
| 10 | 伊丹市 | 0.77 |
| 11 | 神戸市 | 0.76 |
| 12 | 明石市 | 0.72 |
| 13 | 小野市 | 0.70 |
| 14 | 稲美町 | 0.70 |
| 15 | 福崎町 | 0.68 |
| 16 | 三木市 | 0.66 |
| 17 | 川西市 | 0.65 |
| 18 | 赤穂市 | 0.64 |
| 19 | 加西市 | 0.63 |
| 20 | 加東市 | 0.63 |
| 21 | 太子町 | 0.62 |
| 22 | 猪名川町 | 0.60 |
| 23 | たつの市 | 0.52 |
| 24 | 相生市 | 0.52 |
| 25 | 上郡町 | 0.50 |
| 26 | 洲本市 | 0.47 |
| 27 | 西脇市 | 0.44 |
| 28 | 丹波市 | 0.43 |
| 29 | 丹波篠山市 | 0.41 |
| 30 | 朝来市 | 0.39 |
| 31 | 南あわじ市 | 0.39 |
| 32 | 豊岡市 | 0.38 |
| 33 | 淡路市 | 0.36 |
| 34 | 市川町 | 0.36 |
| 35 | 神河町 | 0.35 |
| 36 | 宍粟市 | 0.34 |
| 37 | 多可町 | 0.34 |
| 38 | 佐用町 | 0.28 |
| 39 | 新温泉町 | 0.24 |
| 40 | 養父市 | 0.24 |
| 41 | 香美町 | 0.23 |
なぜ格差が生まれるのか ― 「人・土地・産業」の三位一体構造
財政力指数を左右する最大の要因は、「人口集中」「地価」「産業税源」の三つに集約されます。まず人口が集まる都市では、住民税や消費活動を通じて安定した税収が見込めます。次に地価の高さは固定資産税の増収につながり、さらに企業や工場など産業拠点が多い地域では法人関係税が自治体財政を下支えします。
一方で、人口減少が進む地域ではこれらの要素がすべて弱まり、歳入の柱である税収が細くなります。その結果、地方交付税など国からの支援に頼らざるを得ず、自由に使える財源が限られる「財政の硬直化」に陥りやすくなります。
まとめ ― 数字の裏にある地域のストーリー
財政力指数は、単なる経済力の指標ではありません。それは、地域がどれほど自立して行政を運営できるか、つまり「まちの生命線」を測るバロメーターといえます。
山と海に挟まれた兵庫県は、地形の多様さゆえに地域ごとの発展の差が際立っています。古くから街道や鉄道、港湾といった国土の主要軸が通った阪神・播磨地域では、人やモノの流れが経済を育て、豊かな税源を形成してきました。一方で、そうした交通の幹線から外れた内陸部や但馬地域では、人口や産業の集積が進みにくく、財政基盤の脆弱さが今も課題として残っており、この地理的・歴史的な条件の差こそが、地図に現れた「財政力指数の濃淡」を形作っています。


コメント