まちの“にぎわい”を可視化する──京都府・飲食店密度で見る観光と経済の地勢図

京都府内の市区町村別に人口あたり飲食店数を示した地図。中心部ほど色が濃く、経済的に活発なエリアを可視化している。 データで見る住みやすさ

飲食店の分布は「にぎわいの温度計」

まちが活気づくとき、最初に増えるのは「人」と「店」です。
観光客が訪れ、地元の人が外に出る──その両方の動きが交わる場所には、必ず飲食店が集まります。

飲食店の数は、まちに流れる人の量と滞在時間を映す鏡のような存在です。
そこで今回は、京都府全域を対象に「人口1,000人あたりの飲食店数」を指標として、
地域ごとの“にぎわい度”を可視化しました。

データは、総務省の経済センサスおよび国勢調査を基に集計し、
行政区域ごとの地図に落とし込んで分析しています。
飲食店の分布から見えてくるのは、観光と暮らし、そして経済活動の交点にある“まちの体温”です。

分布図:京都の「食の熱」はどこに集中しているか

地図上で最も高い数値を示したのは、京都市内の中京区・下京区・東山区の3区です。
いずれも人口1,000人あたり10店舗を超える水準で、京都府内でも突出した飲食店密度を誇ります。
歴史的観光地と商業集積が重なるこの地域は、府内最大の経済ハブといえるでしょう。

次いで、京都市外縁部の区、八幡市・宮津市・舞鶴市・福知山市などが比較的高い水準を示しました。
これらは地域ごとの中心都市として、地元住民の外食需要を支え、周辺からの来訪者も取り込むエリアです。

一方、南丹市や京丹波町、相楽郡などの山間部では数値が低く、飲食店の分布はまばらです。
自然や観光資源は豊かであるものの、日常的な交流人口が限られていることが背景にあります。

飲食店密度は、単に店の多さを示すだけでなく、「人が集まり、滞在する力」を定量的に表す指標です。地域経済の活性度を読み解くうえで、最も分かりやすく、かつ有効な観察点のひとつといえます。

データで見る格差:ランキング表

🍽 京都府内 市区町村別・人口1,000人あたり飲食店数ランキング

順位自治体名飲食店事業所数人口人口1,000人あたり飲食店数(店舗)
1京都市東山区1,40336,60238.3
2京都市中京区1,568110,48814.2
3京都市下京区1,03282,78412.5
4京都市上京区51583,8326.1
5宮津市12116,7587.2
6久御山町8815,2505.8
7京都市左京区902166,0395.4
8福知山市40977,3065.3
9舞鶴市42680,3365.3
10伊根町101,9285.2
11綾部市15431,8464.8
12京都市南区488101,9704.8
13京都市北区535117,1654.6
14笠置町51,1444.4
15京都市右京区826202,0474.1
16京丹後市20250,8604.0
17南丹市10431,6293.3
18長岡京市26180,6083.2
19与謝野町6220,0923.1
20宇治田原町248,9112.7
21城陽市19474,6072.6
22向日市14756,8592.6
23京田辺市19073,7532.6
24大山崎町4115,9532.6
25南山城村62,3912.5
26木津川市17177,9072.2
27井手町167,4062.2
28八幡市13470,4331.9
29精華町6536,1981.8
30和束町63,4781.7

上位は京都市の中心部に集中しており、とくに中京区の数値が突出しています。
古くからの繁華街と観光地が重なり合い、昼夜を問わず人の流れが生まれる地域であることが、飲食店の密度として表れています。

また、宮津市や伊根町など北部の観光地も上位に位置しています。
人口規模は小さいものの、観光客による滞在需要が地域の飲食業を支えており、観光依存型の地域構造がうかがえます。

一方、南山城村や京丹波町など山間部の自治体では、人口に対して店舗数が少なく、分布は限定的です。
生活圏が広く、自家消費や移動販売などが一定の役割を担っていることも背景にあると考えられます。

全体として、京都府内の飲食店分布は「観光で人を呼び込む地域」と「地元需要で支える地域」の二極構造を示しています。
この差は、単なる店舗数の違いではなく、地域経済のエネルギー密度──すなわち人の集まり方と滞在の力──の差として読み取ることができます。

📚 出典(参考データ)

  • 経済センサス‐基礎調査(令和3年)
     出典:総務省統計局・経済産業省「経済センサス‐基礎調査」事業所・企業統計編
     (※「飲食店事業所数」は、日本標準産業分類の「76:飲食店業」に該当する事業所数を集計)
  • 国勢調査(令和2年)
     出典:総務省統計局「国勢調査」人口・世帯に関する基本集計結果
     (※「人口」は常住人口を使用)
  • 地理データ(地図描画用)
     出典:国土地理院「行政区域データ(令和5年1月1日現在)」

観光 × 地元経済の“交点”を探る

京都府内のまちは、その特性から大きく三つのタイプに分類できます。

第一に、観光特化型。
中京区・下京区・東山区が代表的です。
いずれも人口1,000人あたり10軒を超える飲食店密度を示し、府内で突出しています。
観光消費と夜間経済が地域を牽引し、短期滞在者の多さが飲食店数を押し上げています。
このエリアは、まさに京都の観光経済を支える中枢といえます。

第二に、地域中核型。
舞鶴市・福知山市・亀岡市・宇治市・宮津市などが該当します。
これらの都市は地元住民による日常的な外食需要を基盤に、周辺地域からの利用も集めています。
観光地としての要素を持ちながらも、地元消費が主軸で、生活密度と商業集積が釣り合った安定した地域経済を形成しています。

第三に、潜在資源型。
南丹市・京丹波町・相楽郡(和束町・南山城村・精華町など)がこれにあたります。
自然や文化など観光資源には恵まれているものの、「滞在時間」や「可処分所得」を十分に取り込めていません。
観光客は通過するものの、地域での飲食や体験消費にまで結びつかない構造が見えてきます。

飲食店が少ない地域は必ずしも衰退しているわけではなく、地域の経済構造の違いを示しています。
今後の地域振興を考えるうえでは、この構造を踏まえ、「滞在を生む観光」へとどう転換していくかが重要な鍵となります。

飲食店密度から見た地域戦略のヒント

地域に根ざした飲食店は、観光客の財布と地元の暮らしをつなぐハブです。
観光消費を一過性で終わらせず、持続的な経済循環へとつなげるには、「地元の人が平日も利用する店」の存在が欠かせません。

一方で、地元主体の商圏では、「外から来た人が気軽に立ち寄れる場」をどう設けるかが課題となります。
観光と生活の間にあるこの接点こそ、地域経済を動かす最前線といえるでしょう。

行政の視点から見ると、こうした構造を踏まえた施策が求められます。
たとえば、飲食業を中心としたエリアマネジメント(まちなか再生)
小規模事業者支援と観光施策の横断的な連動
そして夜間経済や食文化を軸とした地域ブランディングの推進です。

つまり、「飲食店の数」は単なる業種別統計ではなく、観光政策と産業政策の双方で測定できるKPI(重要業績評価指標)となり得ます。
まちの経済を“胃袋の数”から診る──そんな定量分析が可能です。

地図は語る、まちの体温

京都の地図を眺めると、人の流れ、経済の温度、そして文化の層が一枚の風景として浮かび上がります。
飲食店の分布は、単なる経済指標であると同時に、暮らしや文化のあり方を映し出す「生活の地図」でもあります。

まちのどこに人が集まり、どこに滞在が生まれるのか。
その軌跡を読み解くことは、地域経済の構造を理解することにほかなりません。

今後は、飲食業だけでなく「宿泊業」「小売業」「観光客数」などのデータも重ね合わせ、
“食を中心とした地域経済の地勢図”として継続的に分析を進めていきたいと考えています。
食の分布を起点にすれば、京都という都市が持つ多層的な経済と文化の呼吸が、より立体的に見えてくるはずです。

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